「一人親方として順調に売上が伸びてきた」 「元請から法人化を求められている」 「建設業許可はもう取っているが、法人化するとどうなるの?」
一人親方として建設業を営む方にとって、法人成り は事業をさらに発展させる大きな一歩です。しかし、建設業の一人親方の法人成りには、他業種にはない 建設業特有の重要論点 があります。
- 建設業許可は法人に自動的に引き継がれない(原則、法人で新規取得)
- 個人許可の廃業と法人許可取得の間に「空白期間」が発生 すると、500万円以上の工事が請けられなくなる
- インボイス制度(2023年10月開始)で、免税メリットの評価が変わっている
- 元請からの社会保険加入要請 が法人化の動機になるケース増加
- 元請との継続契約 の切り替え対応が必要
これらを計画せずに進めると、事業が数ヶ月ストップする という事態にもなりかねません。
この記事では、行政書士の視点から、
- 一人親方が法人成りするメリット・デメリット
- 法人化の最適なタイミング
- 建設業許可の引き継ぎ(新規取得 vs 事業承継認可制度)
- 空白期間を作らない同時進行のコツ
- 元請との関係・取引継続のポイント
までを、実務で使える形で解説します。
1. 一人親方の法人成りとは

法人成り とは、個人事業として営んでいる事業を、新たに設立した法人(株式会社・合同会社)に移管することです。個人事業を一旦終了し、法人格を持つ会社として同じ事業を継続します。
一人親方(労災の一人親方制度を利用しているかどうかを問わず、個人事業として建設業を営む職人・技能者)の法人成りは、事業拡大・元請対応・信用度向上 といった複数の目的で行われます。ただし、単に「会社を作る」だけではなく、建設業許可・社会保険・元請対応・税務 など、複数の実務が絡む複合的な手続きです。
2. 法人成りのメリット

メリット1|社会的信用の向上
法人格を持つと、取引先・金融機関・元請 からの信用度が大きく向上します。大手ゼネコンや優良元請の中には、「法人でないと下請契約を結ばない」 と方針を明示しているところも増えています。事業拡大のためには、法人格が必須のケースが多くなっています。
メリット2|節税効果
所得税は累進課税(最高税率約55%)ですが、法人税はほぼ一定(実効税率約30%前後)。事業所得が800万円前後を超えると、法人化で税負担を軽減できる可能性が高まります。役員報酬を経費にできる点、家族への給与支給などのメリットもあります。
メリット3|有限責任
株式会社・合同会社では、出資者は出資額までしか責任を負いません(有限責任)。個人事業主の無限責任と違い、万一の倒産時にも個人資産が直接脅かされるリスクを抑えられます。
メリット4|赤字の繰越
法人は、赤字(欠損金)を 最長10年間 繰り越して、将来の利益と相殺できます。個人事業主の3年より大幅に有利で、中小法人は所得の全額と相殺可能です。
メリット5|社会保険加入への対応
建設業界では、元請から 社会保険加入 を求められるケースが年々増えています。法人化すると社会保険加入が原則義務となるため、この要請に自然に対応できます。負担は増えますが、元請との継続契約を維持するための必要な投資 と考える事業者も多くいます。
メリット6|事業承継・後継者への引き継ぎがしやすい
法人化することで、事業の永続性・後継者への承継のしやすさが高まります。従業員を雇っていく上でも法人格が有利です。
3. 法人成りのデメリット・注意点

デメリット1|社会保険料の増加
法人成り最大のデメリットは、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務 による保険料負担の増加です。個人事業時代の国民健康保険・国民年金より、負担が大きくなる傾向があります。
デメリット2|赤字でも税金が発生
法人住民税の均等割(最低7万円程度)は、赤字でも納める必要があります。個人事業主なら赤字の年は税金がかからないのと対照的です。
デメリット3|事務処理・経費の増加
決算業務・税務申告・議事録作成など事務処理が複雑化。税理士報酬・経理担当者 などの運営コストが増加します。
デメリット4|プライベート資金の制限
法人のお金は「法人のもの」で、事業主が自由に使えません。役員報酬 という正当な手続きを経て受け取る必要があります。
デメリット5|建設業許可の取り直しが必要(次章で詳述)
一人親方が個人で持っている建設業許可は、法人に自動的に引き継がれません。この対応を誤ると、事業に空白期間が生じる重大なリスクとなります。
4. 法人成りの最適なタイミング

タイミング1|事業所得が800万円前後を超えたとき
所得税の累進税率が法人税率を上回る水準に近づくため、節税メリットが出やすくなります。
タイミング2|元請から法人化を求められたとき
「法人でないと継続契約できない」と明確に言われた場合は、明快なタイミングです。取引の継続・拡大のために法人化を進めます。
タイミング3|社会保険加入を求められたとき
建設業界では、元請が 社会保険加入を下請採用の条件 にするケースが増えています。個人のまま加入するより、法人化して加入する方が対外的な信用も上がります。
タイミング4|従業員を雇いたい・雇っているとき
従業員を継続的に雇用する なら、法人格を持つことで採用力・従業員の信頼度が上がります。労務管理・社会保険手続きも法人の方がスムーズです。
タイミング5|建設業許可の更新・業種追加を控えているとき
個人許可の更新時期に法人化を合わせる ことで、手続きを効率化できるケースがあります。個人での更新を諦め、法人で新規取得に切り替える判断も一つの選択肢です。
5. 【最重要】建設業許可の引き継ぎ
建設業の一人親方の法人成りで 最も重要かつ複雑なのが、建設業許可の取り扱い です。この対応を誤ると、事業に致命的な影響が出ます。
個人許可は自動で引き継がれない
絶対に押さえるべきポイント:個人事業主として取得した建設業許可は、法人成りしても自動的に法人へは引き継がれません。建設業許可は「個人」または「法人」という事業主体ごとに与えられるためです。
対応方法には、大きく2つのルートがあります。
ルート1|法人で新規取得(従来の方法)
個人での廃業届 → 法人で新規申請 という手順を踏みます。
- 個人時代の経営経験・実務経験は 要件の証明資料として活用可能
- 手続きに 2〜3ヶ月 はかかる
- 個人許可の廃業と法人許可取得の間に 空白期間が発生するリスク
ルート2|事業承継認可制度(2020年改正で新設)
2020年10月施行の建設業法改正 で新設された、個人から法人(またはその逆)への建設業許可の事業承継を、事前認可で可能にする制度です。
- 事前に認可申請 を行い、承継計画を認可してもらう
- 認可を受ければ、個人許可がそのまま法人許可として継続
- 空白期間が発生しない
- 要件を満たすかの事前診断が必須
事業承継認可制度は、要件が細かく事前準備が必要ですが、空白期間ゼロで法人化できる強力な制度 です。当事務所では、この制度の活用可否も含めた診断・申請サポートが可能です。
6. 空白期間を作らない同時進行の進め方
空白期間の何が問題か
個人許可の廃業と法人許可の取得の間に生じる空白期間は、500万円以上の工事を請け負えない 期間となります(軽微な建設工事は可能)。数ヶ月続けば、元請との継続契約が維持できず、事業に大きな打撃 となります。
対策1|事業承継認可制度の活用(最善)
前述の通り、2020年改正の事業承継認可制度を活用できれば、空白期間ゼロで法人化 できます。ただし要件・事前準備が必要。
対策2|同時並行での準備(現実的な選択)
事業承継認可が使えない場合、会社設立と法人での建設業許可申請を同時並行で進める ことで空白期間を最小化します。
| 進め方 | 空白期間 |
|---|---|
| 別々に段階的に進める | 数ヶ月 |
| 同時並行で進める | 最小限(うまく行けば数週間〜1ヶ月) |
対策3|個人許可を可能な限り残す
法人での許可取得完了直前まで、個人許可を廃業しない という選択もあります。個人の許可期間中は個人名義で工事を継続し、法人許可取得と同時に切り替える対応です。
対策4|専門家との連携
複数の手続きを並行して進めるには、建設業許可と会社設立の両方に精通した行政書士 のサポートが不可欠です。一人でスケジュール管理するのは非常に困難です。
7. 元請との関係・取引継続のポイント
事前の説明・調整
法人化を進める段階で、主要な元請には 事前に法人化計画を説明 します。契約先が変わることを伝え、切替時期を相談します。
契約書類の切替対応
| 対応事項 | ポイント |
|---|---|
| 継続契約の切替 | 個人名義の既存契約を、法人名義の新契約に更新 |
| 下請通知 | 元請への下請通知を法人名義に変更 |
| 請求書・領収書 | 切替日以降は法人名義で発行 |
| 現場入場等の手続き | 元請の現場管理システム(グリーンサイト等)の登録更新 |
| 建退共・労災 | 元請と協議して継続または切替 |
切替タイミングの調整
工事の途中で法人化するのは、契約管理が煩雑になります。可能なら 工事の区切り に合わせて切替タイミングを設定するのがスムーズです。
元請の信頼を維持するために
法人化は元請からも歓迎されるケースが多いですが、切替対応が雑だと信頼を損ないます。書類・手続きは確実に、遅延なく対応することが重要です。
8. 建設業界のインボイス制度対応
インボイス制度が法人成りの判断に影響する
2023年10月開始のインボイス制度 で、法人成りの節税判断が変わっています。
従来の「免税」メリット
かつては「設立後2年間は消費税免税」が法人成りの節税メリットの1つでした。
インボイス制度後の実情
- 元請(取引先)が課税事業者の場合、インボイスを求められる
- インボイス発行事業者になる = 課税事業者になる(自動的に)
- したがって、多くの一人親方は 免税メリットを実質享受できない
建設業界での実務
建設業界では、大手元請の多くが下請にインボイス登録を求めています。個人事業のうちからインボイス登録している一人親方も多く、その場合は法人化しても消費税負担は基本的に変わりません。
重要:法人成りの節税判断は、以前のように「免税メリット」を前提にできません。所得税と法人税の税率差、社会保険負担、事務コスト を総合的に見積もる必要があります。判断に迷う場合は税理士との相談を組み合わせるのが確実です。
9. よくあるご質問
Q1. 個人で持っている建設業許可は、法人化したらどうなりますか?
原則として、法人に自動引き継ぎされません。法人で新規取得するか、2020年改正の事業承継認可制度を活用します。当事務所は両方に対応可能です。
Q2. 法人化のタイミングはいつがベストですか?
事業所得が 800万円前後 を超えたとき、元請から法人化を求められたとき、社会保険加入を求められたときなどが目安です。建設業許可の更新時期と合わせるのも一つの選択です。
Q3. 個人許可を廃業して法人許可を取り直す間、事業はどうなりますか?
500万円以上の工事は請け負えない空白期間 が生じます。この期間を最小化するため、事業承継認可制度の活用や、会社設立と法人許可申請の同時並行が有効です。
Q4. インボイス制度で免税メリットはなくなりましたか?
建設業界の多くの元請はインボイス登録を求めるため、実質的に免税メリットを享受できないケースが多い です。ただし、取引先の状況によっては依然としてメリットが残ることもあります。
Q5. 元請への切替対応はどうすればいいですか?
事前に法人化計画を説明し、契約書類・下請通知・請求書などを法人名義に切り替えます。工事の区切り に合わせるとスムーズです。
Q6. 株式会社と合同会社、どちらで法人成りすべきですか?
信用度重視なら株式会社、コスト重視なら合同会社 が基本です。建設業界の元請対応では、株式会社を選ぶケースも多い一方、合同会社でも問題なく取引できるケースが増えています。詳しくは関連記事「[株式会社と合同会社の違いを徹底比較]」もご覧ください。
Q7. 会社設立と建設業許可の同時進行、本当に効率的ですか?
はい。別々に進めると4〜6ヶ月、同時並行なら2〜3ヶ月で開業に至れるケースが多くあります。詳しくは関連記事「[会社設立と建設業・産廃・宅建の許認可を同時取得する方法]」もご覧ください。
Q8. 千葉県以外でも対応してもらえますか?
全国対応可能です。千葉県・東京都・埼玉県・茨城県は即日訪問対応、その他の地域もオンライン・郵送で完結します。
10. まとめ
一人親方の法人成りは、
- 社会的信用・元請対応・節税・有限責任 など多くのメリット
- 一方で 社会保険負担・事務コスト・均等割の税金 などの負担増
- 最適なタイミングは 所得800万円前後・元請からの要請・社会保険加入要請 など
- 最も重要なのは 建設業許可の引き継ぎ(新規取得または事業承継認可制度)
- 空白期間を作らない同時進行 の段取り
- インボイス制度 で免税メリットは実質享受できないケース多数
というポイントを踏まえて、計画的に進めることが重要です。
特に、建設業許可を持つ一人親方の法人成り は、単なる会社設立ではなく、建設業許可・元請対応・社会保険・税務 が複合的に絡む複雑な手続きです。建設業に精通した行政書士 に相談することで、空白期間なく、元請の信頼を維持しながら、スムーズに法人化を実現できます。
「一人親方から法人成りしたい」「元請から法人化を求められている」「建設業許可の引き継ぎが不安」「空白期間を作りたくない」——どんな段階のお問い合わせも、お気軽にどうぞ。
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- 会社設立と建設業許可申請の同時並行で空白期間を最小化
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